文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 真理蛙の滴(マリアのしずく)第三話

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「姉が昨日帰ってきませんでした」

無言の又吉に、紗季がもう一度同じことを呟
いた。

「置手紙とか何か?」

「ありませんでした」

「携帯に連絡は?」

「ありません」

少し怒りを含んでいる。
恋人の又吉なら知ってて当然だと思っているの
だろう。

「思い当たることはありますか」

「私は又吉さんにお聞きしているんです。姉が
 どこにいるか心当たりがないかを」

明らかに又吉が陽子をどうにかしたと思い込ん
でいるようだ。
実は又吉にすれば紗季以上に戸惑っているのだ
が、紗季が動揺しているので自分の方が驚いて
いるとは言えなかった。

ここは事実を淡々と話すしかない。


「すみません。僕も陽子さんとはここ三ヶ月程
 会ってないんです」

「三ヶ月も!」

紗季も驚いたようだ。

「陽子さん僕には旅行に行くと言ってました」

「旅行は嘘です」

間髪入れず沙希が否定した。

そんなことはわかっている。
陽子が本当に旅行に行ったのなら紗季に黙って
行くはずが無い。
旅行が嘘なのはわかった。
問題は何故嘘をついたかだ。

「何故又吉さんに嘘をついたんでしょう」

紗季もそこに気付いたようだ。

「陽子さんその前日までは普通だったんですか」

「ええ」

紗季の返事がだんだん弱弱しくなって来た。

「大学の方には聞かれましたか」

「三ヵ月前に辞職しました」

「えっ」

今度は又吉が驚く番だった。

     続く

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