文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 真理蛙の滴(マリアのしずく)第六話

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天井に貼った星空のクロスを見ていた時又吉
はあることに気付いた。

三ヵ月前、陽子の家でデートもどきの食事会
をしたその前日、珍しく陽子が編集社に現れ
又吉を編集社の喫茶店に連れ出したのだ。

恋人同士に思われていた陽子と又吉。
誰も何も言わなかったが、又吉にすれば驚き
だった。

陽子に担当を指名され二人きりで会うのは、
最初の出会いを含めても二度目だったからだ。

その時陽子が何気にくれた紙製の薄いマッチ箱
を思いだしたのだ。

又吉は起き上がると、スーツのポケットから
マッチ箱を取り出した。

表記にはサンタマリアと表示されている。
又吉も知っている、高層ビルの最上階にある
有名な三ツ星レストランだ。

陽子が言うには、マリアのしずく伝説を調べて
いる、心理学と伝承の関連性についての研究だ
と言う。
でも行き詰まり、とうとうこんなマッチにまで
反応するようになってしまったから、もうやめ
ようかな・・

と、ごく自然にマッチを又吉にくれたのだ。

何気なく受け取り、そのままポケットに仕舞い
こんだまま今日に至ったのだが、陽子の行方が
わからない今となっては、案外貴重なヒントに
なるかも知れない。

もう一度外箱を見、サンタマリアのレストラン
を思い浮かべると、又陽子の言葉を思い出した。

「夜九時にこの店に行くと、マリアのしずくの
 ヒントが隠されていると、都市伝説めいたも
 のがあるらしいの、本気で行ってみようと思
 っちゃってね、私、変でしょ」

わざわざ、又吉を喫茶店に呼び出してまでする
話ではない、今思えば確かにおかしい、ひょっ
としたら、陽子は又吉に何かを伝えようとして
いたのか・・。

又吉は上着を掴むと、紗季に電話し

「今からそちらに行きます」

紗季の返事も聞かず、電話を切った。

ひょっとしたら、陽子はマリアのしずくを探し
に出かけたのでは・・

今マンションにはもう陽子は居らず、紗季一人だ
けとは考えもせずに。

    続く

 

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