文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 真理蛙の滴(マリアのしずく)第一話

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朝比奈紗季(あさひなさき)から電話が入った。
又吉輝は驚いて携帯の画面を見直した。
間違いなく紗季からだ。

姉の朝比奈陽子とは一応恋人関係にあるからよ
くかかってくるが、妹の紗季からかかってきた
ことは一度もない。

驚く又吉は反射的に

「なに?」

と素っ気ない返事をしてしまった。

丁度編集社の仕事の真っ最中。
気も立っており、殺伐とした中での紗季からの
電話、驚きが素っ気ない「何?」になってしま
ったのだ。

しばし沈黙が続いたので又吉は慌てて

「ゴメン、さきちゃん、どうかしたの」

優しく言い直した。

姉妹でありながら沙希と陽子はまるで違う。
姉の陽子は外交的で楽天的だ。
モットーがポジテブな生き方らしく、くよくよ
しない。
人の心理に興味があるのか心理学を専攻しその
ままその大学院を卒業後、大学の講師を務めて
いる。

妹の紗季は人見知りで、三十になった今日まで
一度も働きに出たことは無い。
美術を専攻し、大学を出た後は自宅をアトリエ
代わりに絵を描いている。

その紗季からの電話だ。

「姉が昨日帰って来ませんでした」

心なしか声が震えている。

陽子は三十三歳。
三十三歳にもなる女が一日ぐらい外泊したから
と言って別に不思議がることもないのだが朝比
奈姉妹の場合は事情が違う。

十年前朝、朝比奈一族が毎年恒例行事で行ってい
た海外旅行の飛行機が墜落し一族全員が亡くなっ
てしまった。

この海外旅行に紗季は一度も参加しなかった。
病弱を理由に、いくら誘われても頑なに拒絶して
いた。
さすがに病弱な紗季だけを一人日本に残していく
のはためらわれたので、毎回紗季担当としてくじ
引きで誰が残るか決めていた。

この年は、紗季の落ち込みが特に激しく、どうし
ても陽子に残ってほしいと言うものだから、陽子
が残ることになった。
結果陽子の命は紗季に救われた形になった。

朝比奈一族は陽子と紗季の二人きりになってしま
った。

   続く

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