文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 ローソクを持つ女 最終

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「どうしたら君は納得してくれるんだ」

俺は、女の機嫌を読み取りながら、聞い
てみた。
機嫌を損ね、また、炎を吹き消されでも
したら、大変だ。

「私を生き返らせて」
「そんなこと、俺にできるわけないじゃ
 ないか」

女も自分の言った事が、無理だと理解し
たのか、しばらく宙を見つめ

「じゃ、自首しなさい。私を殺した事を
 警察に言ってしかるべき罰をうけなさ
 い」
「それで、許してくれるのか?」

最初から、自首するつもりだった。
気が動転して、逃げはしたが、冷静にな
れば、逃げきれるものでないことはわか
っている。

車は大破に近い。
現場には、俺の車の残骸が、いっぱい残っ
ているはずだ。
警察に捕まるのは時間の問題だ。

酔いきった頭の片隅で、俺は、最初から自
首するつもりではいたのだ。

女の表情が一変した。
あまりにも、俺があっさり自首を認めたか
らからだろうか。

「あんた、お酒飲んでたでしょ」
「ああ」
「じゃあ、それも正直に言うのよ、お酒飲
 んで私をはねて、私を殺したんだって。
 それで、死刑にしてもらうのよ」
「死刑は・・」

さすがに、ひき逃げで死刑は聞いた事がない。

「だめ、絶対に死刑になるの。そうでなきゃ、
 不公平じゃない、なんで引き殺したあんた
 が、生きていられるわけ」

女は、どんどん興奮していく。
俺が生きている事に腹を立てているようだ。
ひき逃げ程度では、死刑にならないのを理解
し、どうにも、我慢が出来ない表情だ。

「ダメ、絶対に許されない。私を殺したあん
 たが生き残るなんて、私は(死んでも)許
 せない」

そう怒鳴ると、女は、俺のローソクの炎を指
先でつまんだ。

「ぐふ・・・」

俺は、胸を押さえてのたうち回った。
目から火花が、鼻から鼻汁が、尻の穴からは
糞が垂れ流れた。

やがて、意識が遠のき、暗い点が現れ、その
点は、見る見る大きさを広げ、やがて、意識
全体を覆った。

プツーン ●●●●●●-----
そうか、これが死というものか。


放心して立ちつくす、女の前に、一人の仙人
が現れた。
白装束に身を包み、長く、いびつな杖を持っ
ている。

寂しそうなまなざしで女を見つめている。

「それが、あんたが決めた答えなんじゃな」

「だって、、許せないでしょ。私が何をした
 というの、青になった横断歩道を歩いてい
 ただけなのよ、それをあの酔っぱらい男が
 はねたのよ。私は死んで、あの男は生き続
 けるのよ。そんな事、だめ、絶対許せない」

「私に、あんたが決めた答えをどうこう言う
 資格はない。
 ただ、残念なことじゃが、あんたは、地獄
 に行ってもらう事になる」
「地獄?どうして、私が地獄にいかなきゃな
 らないのよ。地獄に行くのはあいつよ」

女は、ホテルの部屋で、大の字になって死ん
でる男を指さした。

「彼の行き先は、彼についた(判人)が決め
 るから、わしにはわからん」
「私がどうして、地獄なのよ」
「そういう(しきたり)だからしかたがない」
「私が、ローソクを消したから、だから地獄
 に行くわけ」
「そういう事だ」

仙人は寂しそうにうなづいた。

「どうして殺された私が、試されなければな
 らないの?」
「死ねばだれもが、試される」
「ローソクを消す事が、悪いことなの、私は
 被害者よ、死んだ私が、殺した相手を殺し
 てなにが悪いの」

女は仙人に詰め寄った。

「だから、わしに何を言われても、決められ
 た事は変わらんのじゃ。あんたが、地獄に
 行くことは、ローソクを消した時点で決ま
 ったことなんじゃ」
「許さない。あんたも、あの男も、そんな判
 断基準を決めた、あんたの仲間達も」

女はそういうと、仙人に向かって、とびかか
った。
仙人に女の手が、触れた瞬間、女のからだは
陽炎のように揺らめき、やがて消えた。

瞬間、大の字で死んでる男の躯も消えうせた。
もちろん、仙人の姿も。

 


月の思惑が異様に大きな満月の晩。
そこは公園の片隅。
枯葉が1枚、夢の宴を名残惜しそうに揺らめ
いていた。

       終わり

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