文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第十五話

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指定した橋の中ほどに、立花は小さく立っていた。

紺のスーツに身を包み、横に並べば、私より頭一
つは大きい立花は、とても小さく見えた。

小さくさせたのは私だ・後悔の念が風と共に私を
ピシリと打つ

蒼ざめた表情は、まるで能面のようだ。

生きた証が見受けられない。

娘を暴漢から奪われた可哀そうな女だ。
まさしくそれは、私自身でもあった。

私も、こんな風に見えるんだろうな・・

そう思うと、妙に軽いおかしさがこみあげてきた。

能面のような立花の顔を直視し、乾いた両目を見
た時、私は悟った。

この人も、もう泣けないんだ。

心根は、痛いほどわかった。

私と、さっきまでの私とまるっきり同じだ。

(拓也)が私を貫くまでの私の姿そのままだ。

私達は、橋の欄干に背を持たせながら、隣り合わ
せに並んだ。

遠くから爆竹の音が何発も響いてくる。

立花の瞳は死人の目そのものだった。

拓也の言う通りだ。

この人は、死のうとしている。
いや・・ある意味脳死の拓也より、確実に死んで
いたのかもしれない。

「ごめんなさい、急に呼び出してしまって」

立花の身体がビクンと揺れた。

「拓也、明日死ぬことになったの」

驚いたように立花が私を見た。

「機械を外されるんですか?」

乾いた声だ。

「そう、明日拓也は逝くことにしたの」

「な・・ぜ・・」

「立花さん・・あなた死のうと思ってるでしょ」

私は、わずかにほのめき始めた、立花の瞳の中の
命に、そっと語りかけた。

引きずり出してやる。
この人の、生きる力を。

立花が生き続ける事が、私が生き続ける事でもあ
るからだ。

「拓也が教えてくれたの。凛音のお母さんが死
 のうとしてると」

「息子さんが?私が死のうとしてると・・」

「実はね。私も死のうと思っていたの。拓也に
 叱られるまでは」

不思議そうに私を見つめる立花に、病室で体験し
た、あの拓也の想いをうち明けた。

            続く

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