文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第十話

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息子の名は拓也。まだ23歳だ。

大学を卒業し、本社で研修の後、初めて赴任先の
会社に行くその朝、災難は襲った。

災難と言っていいのか?
私にすれば災難以外のなにものでもないが、拓也
にすれば自らの意思といえない事もない。

一人暮らしを始め、初めての出勤。

玄関のドアを開けたら、男女の言い争う姿を目撃
した。

後から聞けば、ストーカーに襲われた女性が今ま
さに、刺されようとしている現場に遭遇したのだ。

女性も被害者だろうが、私に言わせれば、拓也が
一番可哀そうだ。

正義感旺盛な拓也がそんな現場を見て黙っている
はずがない。

拓也が止めに入った時、女性はすでに腹を数か所
刺され、たとえ拓也が止めにいかずとも助からな
かっただろうとは、後から警察の方から聞かされ
た。

しかし、拓也が止めに入った事で、女性が母親と
の最後の面会が出来た事は、せめてもの救いだっ
たかもしれない。

助けに入った、甲斐はあったのだ。

そのままであれば、ストーカーにめった突きされ
た女性はたぶん即死状態になったであろう、せめ
て自分達とお別れの挨拶が出来る時間を作ってく
れたことに感謝しますと・・

土下座して謝ってくれた、女性の母親に、私
はどう対処すればよかったのだろうか。

ののしれるわけがない。
この母親も被害者だ。

私と同じような悲しみを押しこらえて、私に土下
座をしている。

どうしろというんだ。

沈黙しかない。
乾いた眼で同じ被害者の、女性を見るしかできな
いだろう。

笑って許してあげるなどそんなこと、出来るわけ
がない。

拓也は・・
拓也は・・

死んだんだ。

嫌・・もっと悪い。
生きたふうで・・死んでいる。

もう死んでいるという医者が、それでも最後の
「死の宣告」を私に決めろという。

ひどい・・
ひどすぎる。

ストーカの男に突進した拓也はそのまま男と、階
段を転げ落ちた。

ワンフロア下の踊り場で拓也は、ストーカー男に
お腹を刺された。

痛かったろうに。

それでも、かかんに拓也はストーカに挑んだらし
い。

もみあいストーカーからナイフを奪い取ったとい
う。

しかし、ストーカー男はまだ他にナイフを持って
おり、再び女性に襲いかかろうとした。

どうしようもないと判断した拓也は、ナイフでス
トーカの足を刺した。

それがストーカーを激高させたのだろう。

女性に襲いかかるのをやめ、再び拓也に向かって
きた。

拓也は、ストーカーに脳天からナイフを貫かれ脳
死した。

拓也も負けていない。

自分が刺されて死ねば、次は女性に再び襲いかか
ると判断したのだろう。

奪い取ったナイフでストーカーの腹を一突きした。

息子さんは立派でしたと、私に息子の脳死を伝え
てくれた警察官は言ってくれたが、言われなくて
も拓也は最初から立派な息子だ。

ストーカー男と相討ちしてなんか欲しくなかった。

立派でなくてもいい。

弱虫で、見て見ぬふりをしてくれてた方がいい。

なんであんな勇敢な男の子に育ってしまったんだ
・・・

もう、涙も枯れ果てて出ない。

ため息の先にあるのは

・・そう
・・脳死・。

    続く

 

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