fuuraの小部屋

小説や本について寡黙に妄想。小説家になろうのサイトで人気を得る研究。小説家になるにはどうしたらいいかを研究。でも結局は、まずは小説と詩を書こう 。

蜜蜂と遠雷を読んで

音符が降ってくる。

痛くはないがもう、バラバラばらばらと
辺りはあっという間に音楽の山

シャープやフラットはくるくる回りながら
二分音符はタタタッと、四分音符は逆さまに
十六分音符は斜めになってケタケタ笑っている。
ものすごい数だ。

雪のように降ってくる。
コンコン、キャッキャと降ってくる。
どの表情も満面笑み。
楽しさは伝播する。
触れる者、ふれるもの、全てに笑みを与える。

降りしきる音符の雪は体に当たると、お約束事
のように身体の中に染みていく。
すると、音符たちは体の中で寝ていた言霊たちを
揺り動かす。

起きろ、起きろ、さあ、感動の時間だ。
言霊たちは目をこすりながら、音符に誘われる。
突然、笑い、弾け、手を取りあい踊りだす。
音符と言霊のコラボだ。

身体が熱くなる。
燃え上がる。
感動の息吹が、めらめらと、心の奥底からタケノ
コのように突き出してくる。

「ふざけるな!」
そんな、まやかしになんかに乗るもんか。
お前の手の内はわかっているんだ。
少女趣味な技法は、とっくの昔にばれているんだ。

そう強がるが、感動の息吹は強がりの塊さえ肩に
手を回し、踊ろうと誘う。
敵味方なんか関係ない
感動を分かち合おうよ。

「えーい!その手は私には通用しないんだ」

払いのけようとするが、力が入らない。
興奮が、感動が、喜びが、歓喜が、楔のように
まとわりついてくる。
それが、とんでもなく快感なんだ。

強がりは、音符と言霊のワルツに乗って、やがて
溶けだし、隠し持った私の良心をも引き釣り出す。
アイデンティティの崩壊だ。
自我が他者と融合してしまう。
止めてくくれ!

書き連なれた物語の行間など読み解く必要がない。
行間に音符が隠れ、ひょいと現れる。
言霊と手などつないで。

「さあ、批判精神なんか放り出せ、一緒に踊ろ」

誘われ、おずおず手を出せば、その手を握りしめ
踊り狂う、音符と言霊の世界に私を誘う。

と、突然踊りが止まった。
全員が空を見上げた。
三日月の端に女がぶら下がっている。

「あれは」

女は手を放し、三日月から地上に降りてきた。
音符たちが集まり、大きなクッションで女を迎え
入れる。

歓声が凄い。
割れんばかりの音響だ。
言霊は地を踏み鳴らし、音符の歓声と共鳴する。
拍手の嵐が、津波のように押し寄せ、やがて
静寂。

女が立ち上がったのだ。
純白の衣装。
なんと神々しい姿だ。
その人の名は おんだりく
そう、 恩田陸
手には、赤い血のような赤さのタクトを握りしめ。

恩田は血のタクトを振り上げた。

「やめろ、もうやめてくれ、感動は十分だ。これ
 以上の感動は魂が溶けてしまう」

しかし、恩田はやめない。
タクトを振り下ろすと、また始まりだ。
音と言霊のコラボ。
大地が騒めき、全ての空間が感動の嵐に飲み込
まれる。
止めてくれ・・・・

 

そんな小説が、蜜蜂と遠雷
凄い小説だ。
本屋大賞直木賞受賞は本物だ。
本物の力をいかんなく見せつけた。

読み手が感動するのは作家として当たり前だろう。
しかし書き手をも唸らせるこの技法はなんだ。
いや、技法ではない。
技などつかっていない。
ただ、音楽レースの有様を書き連ねた小説だ。
筋書きはいたってシンプル。
シンプルゆえにそのすごさがいよいよ冴えわたる。

何なんだ、この上手さは。

語彙の豊富さの裏には、何かが潜んでいる。
その何かが、わからない。
神か、言葉の神に愛されたオーラのなせる業なのか
ならば、恩田はもう神に昇華してしまったのか。

ならば頷ける。

善人だらけの登場人物。
悪人はいない。
足を引っ張ろうとする人もいない。
ただひたすら、善人だらけの配役が、音符と言霊
の嵐を踊りぬける。

踊る阿呆に見る阿呆、どうせ阿保なら踊らな損損
踊り狂えば感動の汗が飛び散る。

ただそれだけの小説。
なのに何なんだ、この感動は。
首にわっかをかけられ、否おうなしに感動という
火中の中に放り込まれる。
しかし、この火中が心地よい。
強制に放り込まれる、その行為すら愉快だ。

まてよ、恩田は神になったのではない。
ひょっとしたら、音符と言霊の奴隷になったのでは。
強烈な感動の矢を得るために、音符と言霊にすり寄
ったのか。

まてまて、それは、神にしかできない所業。
ならば恩田は、やはり神になったのか。
神、いや女王。

恩田陸
恐ろしい作家だ。
この先どんな作品を世界にちりばめるのだろうか。

見てみたいものだ。

いや、
渦中に入り込み、流れに身を任せてみたい。
恩田が与えるものが、言霊の麻薬ならば、こんな
甘美な麻薬はない。

喜んで中毒患者になってやる。

でもこれ以上の作品
書けるのだろうか、人技で。