文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 最終章

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「そしてね・・拓也さんが元気だと知った凛音
 は、それでもう、すっかり安心したのか、私
 にね・・私を・・こう・・じっと見てね・・
 弱弱しいけれど、微笑んでね、そして・・一
 言だけいってくれたの ・・言ってくれたのよ
 凛音は。
 ・・・ありがとう・・て」

立花はそう言うと、橋の欄干にもたれるように崩
れた。

大声で、あたりはばからず、おいおい泣きじゃっ
くった。

私は、そんな立花の肩を優しく抱きしめながら、
病院にかけつけ、脳死状態の拓也を見た時の自分
を思い出していた。

同じだ。
この人も。
ぶつける先のない怒りに、心の中が焼けただれて
いる。

私と、同じだ。

私ならわかる。彼女の悲しみが・・彼女ならわか
ってくれる。
私の悲しみが。

「あのこ、何にも言わなかったのよ。なんにも
 聞かなかったのよ、自分を刺した相手の事、
 どうしてこんな理不尽な事が起きたのか、そ
 んな恨みがましいこと何も言わないで、助け
 にきた拓也さんの心配をして、私を気づかっ
 て・・なんで、、どうして、、あんな良い子
 が死ななきゃいけないの・・なんで・・どう
 してなのよ!」

嗚咽にも近い叫びだった。

慟哭といってもいい。
涙で焼けただれた、心の中を洗い流せばいい。

私は、立花が泣きやむまでずっと抱きしめていた。

「2人は恋人同士になってたと思うわ」

「えっ?」

立花が落ち着いた頃合いを見計らって、私は呟い
てみた。

若い二人よ。
しかも似た環境。
聞けば、拓也がきっと惚れちゃいそうな凛音さん。

恋人にならないはずがない。

この世で結ばれなくったって、きっと向こうの世
界で結ばれてるに違いないって・・

・・そうよね・・そうだわよね・・

それに、拓也には役目があるわ。あの馬鹿な男を
向こうの世界まで連れていってしまったから、凛
音さんを守る仕事がのこっている。

明日は灯籠流しの日拓也と凛音さん、一緒に
流してあげましょ・・そうしたらきっと二人喜ぶ
と思うの。

私と、立花さんが、ずっと二人を見守っていれば
、きっと二人は向こうの世界で幸せに暮らせると
思うの・・ね・・そう思うでしょ・・立花さんも
・・

遠くでばくちくの音と共に、静かな曲が流れてき
た。

♪精霊流


去年のあなたの思い出が
テープレコーダーからこぼれています
あなたのためにお友達も集まってくれました

二人でこさえたおそろいの
浴衣も今夜は一人で着ます

せんこう花火が見えますか
空の上から

約束通りに あなたの愛したレコードも
一緒に流しましょう
そしてあなたの舟のあと
をついてゆきましょう

私の小さな弟が何にも知らずにはしゃぎ回って
精霊流しが華やかに始まるのです

 

あの頃あなたがつま弾いた 
ギターを私が弾いてみました 

いつの間にさびついた糸でくすり指を切りました
あなたの愛した母さんの
今夜の着物は浅黄色
わずかの間に年老いて
寂しそうです

約束通りに あなたの嫌いな涙は
見せずに過ごしましょう

そして黙って舟のあとを
ついてゆきましょう
人ごみの中を縫う様に
静かに時間が通り過ぎます

あなたと私の人生をかばうみたいに

      ・・・・♪
(鐘楼流し・グレープ)


   終わり