文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 ローソクを持つ女 その2(全3回

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ローソクを持った女にとびかかった俺。
今度もあっさりとかわされる。
いや・・確かに、抱きついたつもりなのだ
が。

「私を抱けないわ。あなたには」

女が嬉しそうに言う。
ローソクの炎は、ちぎれんばかりの真紅だ。
それを、おかしそうに撫でまわす。

身体中のあちこちが、快感でうずき、立っ
ている事が出来ない。
思わず、倒れ込んでしまった。

「これ、なんだかわかる?」

女は、ローソクを差し出した。

「このローソクは、あ・な・た」
「俺?」
「そう、あなたの命、そのもの」

俺は、女を見つめた。
悪寒が走る。
昼間の(嫌)な事を思い出した。

「思いだした?」
「・・」
「あなたが昼間、車で引き殺したのは私よ」

背筋に冷たいものが流れた。

昼間、調子よく車を運転していた時だ。
確かに、多少アルコールは入っていた。
しかし、この程度で酔う俺ではない。

突然、目の前に女が現れた。
横断歩道の信号は青だったようだがうかつ
にも気がつかなかった。
ブレーキも踏まず、横断歩道に突っ込んだ。

鈍い音とともに、女が跳ね上がり、ボンネ
ットを超えフロントガラスを壊し、そのま
ま後ろに吹き飛んだ。

慌てて、急ブレーキを踏み、止まった。
閉じた目を、恐る恐る開いてみた。
バックミラー越しに見る、女はピクリとも
しない。
赤く見えるのは、血か。
ならば、道路は、血の海だ。

恐怖とパニックと、狼狽が全身を襲った。
気がつけば、そのまま現場から逃げ去った
自分がいた。

近くの駐車場に入り込み、しばらく呆然と
していた。

それからの、記憶はほとんどない。
壊れた自動車を、修理に出し、近くのショ
ットバーに入ったという、断片的な記憶が
申し訳なさそうに、蘇ってくる。

「生きていたのか?」
「馬鹿ねえ、生きていたら、あんたの前に
 現れるはずないでしょう」
「じゃあ・・お前は何者だ」
「あんたに引き殺された可哀そうな女よ」
「幽霊か?」
「そんなに早く幽霊なんかになれるわけな
 いわよ」

そういうと、女は、ケタケタと笑い、手に
持ったローソクを前に差し出した。

「このローソクの炎は、あなたの命」
「俺の命?」
「この、炎を消せば、あなたも死ぬわけ」
「俺が?」
「私だけで死にはしないわ、あなたも道ず
 れにしてやるの」

そういうと、女は、ローソクの炎に向かっ
て思い切り息を吹いた。
炎が揺らめき、やがて消えた。

俺は、胸を押さえた。
凄い激痛だ。
息が止まりそうになった。

消えかけた炎はまた、揺らめき始めた。
女の息では、吹き消せなかったようだ。

わけがわからないが、どうやら、事態が
緊急である事はなんとなくわかった。

「ま・・まて、話しあおうじゃないか」

俺は女に向かって、哀願した。
あの激痛は、もうこりごりだ。
天地が、ひっくりかえるほどの痛さだ。
あっさり、死んだ方が、まだいい。

「と・・とにかく、まってくれ」

  つづく

 

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