文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 我慢  (一話完結)

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雄二と春子は共稼ぎ。

共稼ぎといっても、春子はアルバイトだ。

結婚当初は専業主婦だったが、子供が生まれ
大きくなり、そこそこ手もかからなくなり、
来るべき子供の教育費の難問が身近に感じ始
めたころ、そっと雄二に聞いたのだ。

働こうか・・と。

雄二はできれば、妻は家庭で子育てに専念し
てほしかったのだが、昨今の状況が許さない。

世は不景気だ。
雄二の会社もその例外ではない。

残業で、給料の不足分を補っていた。

残業が多い時は、手取り金額は、一流企業で
働く同期の友人よりも断然多かった。

鼻息も荒くなる。

春子の勤めを結婚とともに辞めさせ、専業主
婦になる事が、暗黙のルールとしてなりたっ
た。

子供が生まれ、さあ、これからという時、時
代は不景気の嵐に突入。

残業はおろか、会社存続の危機さえ訪れた。

給与は、多い時の半分ぐらいになってしまっ
た。

そんな時、春子が

「働こうか」

と聞いてきたのだ。

「働きたい」ではない。

「働こうか」だ。

微妙な違いではあるが、雄二にすれば大き
な違いだ。

「あなたの給料では、食べていけないわ。だ
 から私が不本意だけど働いてあげましょう
 か」

そう言ってるように聞こえる。
なかば脅迫だ。

働く事を、既成事実として、その報告をして
いるだけだ。

「ダメだ」などと言えるはずがない。

「ダメだ」と言って、じゃあどうするの・・
と問い返されたら「ぐうの音」も出ない。

「働こうか」

は春子の決意表明だ。

私は、好きで働くんじゃないのよ。生活のた
め、子供のため、暮らしのため・・だから当
然、あなたの家庭生活のスタイルも変わるの
よ、否、変えてもらわなければ困るわ・・

春子は近くのスーパーにアルバイトとして働
き始めた。

もともと、働く事の好きだった春子は、アル
バイト先で、メキメキ頭角を現し、アルバイ
トの元締めみたいな地位についた。

当然帰宅は遅くなる。
出社も早い。

アルバイトとはいいながら、まるで正社員並
みだ。

いくら給与をもらっているのか、雄二は知ら
ない。

春子の収入は、春子のものだ。
それを全額家庭の為につかっているのか、自
分の余暇の為に使っているのか、雄二にはわ
からない。

聞きもしない。
いや、聞けない。

聞いてもし、自分の収入と遜色なければ、そ
う考えただけで身震いがする。

とにかく雄二は率先して家事を手伝った。
ゴミ出しは当然。
部屋の掃除、洗濯物の取り込み、子供の面倒、
とにかく気づけば手伝った。

自分の事は、最低限自分でするように心がけた。
妻に面倒をかけるのを、極力少なくするよう心
掛けた。

おかげで日常は、しごく平和に過ぎていた。

そんな・・ある日曜日のことだった。

子供がぐずり、春子にまとわりついていた。
おかげで、春子の予定が大きく狂ってしまった
ようだ。

少しイライラしてるな・・と気づいてはいた。

通常ならば、そんな春子を見れば、雄二が子供
をあやし、機嫌を取るのだが、その日はあいに
く見たいテレビ番組があった、。

油断した。これくらいいいだろう・・そう思い
テレビを見ていると、背後から妻の声が聞こえ
た。

「お昼、ソーメンがいい。それとも焼き飯?」

声が張っている。

機嫌の悪い証拠だ。
あい変わらず、子供はぐずっている。

「焼き飯でいいよ」

本が飛んできた。
驚いて振り返ると

「いいかげんにしてよ。なによそのいい方」

春子の目がつりあがっている。
な・・なにか悪いことを言ったのか??

雄二は思い出そうとしたが、何も思いつかない。
思いつかないいじょう、対策もたてられない。

「焼き飯でいいとは何よ」

「で・・でも、お前が聞いたんじゃないか、どっ
 ちがいいかと?」

「で・・とは何よ・・焼き飯で、とは、ひどいじ
 ゃないの」

「はあ??」

なにがひどいか、さっぱりわからない。

「人が朝から忙しくしてるのに、焼き飯(で)
 いいはないでしょ」

どうやら、雄二が焼き飯でいいと言ったのが琴
線に触れたようだ。

焼き飯でもソーメンでも、どっちでもいい。
とりあえず何か作れ・・とそう受け取ったんだろう。

そんな気はさらさらない。

むしろ自分で作って食べたいくらいだが、前にそれ
をして、「私の前でラーメンなんか勝手に作って、
それ嫌味」と詰め寄られたことがある。

学習効果だ。
黙って逆らわない事にしていたが、今回はそれがい
けなかったようだ。

当然、この場面では
「焼き飯(が)いい。」いや「焼きめしをお願いした
いです」と言わなければいけなかったのだろ。

しかしだ。
そんなこと、いちいち気にはしてはいられない。
一字違いで頭にこられてはやってられない。

作るのが嫌なら、はなから、自分で作って食べてよと
言ってくれればいい。

雄二も頭にきた。

日頃相当気を遣っている。

そんな気づかいを無視して、揚げ足取りのいちゃ
もんは、やくざと変わらない。

つい、口答えする。
売り言葉に買い言葉だ。

「俺だって、結構気遣って、手伝ってるだろう」

「何よ・・・・・・!!!」

とうとう休火山が爆発したようだ。

来た来た・・すごい反撃だ・・もう、雨あらしだ。

「大体何よ。その手伝ってると言い方。私は手伝
 ってもらってるなんて思ってないわよ。いつ、
 誰が、どうして決めたの、家事を女がしなけり
 ゃならないなんて。え・・法律で決められてる
 の・・前から言おうと思ってたの。あのゴミ運
 びする時の、あの「手伝ってあげてる感」。
 もうたまらないわよ
 そんなの、共同生活してりゃ、当たり前のこと
 じゃないの。私があなたに・・ぜひお願いしま
 す・・て頭を下げなきゃいけないこと。
 ・・・等
 ・・あれこれ
 ・・ああじゃ・こうじゃ
 ・・ブチブチ 
 ・・ぎゃあぎゃあ

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

雨嵐、これだけ矢継ぎ早に来られたら、聞く事すら
できない。
まるで文句のお経だ。

 

もう。
許してほしい。

たかが
(が)を(で)と言わなかっただけじゃないか。

なんでも、俺が悪いのか・・俺のせいにするな
どうすりゃいいんだ
どう生きていりゃ、あなた様のお気に召すのだ

俺だって・・たまってんだぞ。ストレスが。

離婚じゃ

離婚じゃ!・・・・

 

翌日、平身低頭、額が擦り切れるまで頭を下げたの
は私である。

男の寿命が女より短いのは、当然だよな。

    終わり