文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第十三話

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病室のテーブルに置かれたままになっていた一枚
の名刺。

私は思い切ってそこに電話をかけた。

土下座までして許しを請うた、拓也が命まで賭け
て助けようとした、女性の母だ。

女手一つで育て上げた最愛の娘が、ストーカーの
一突きで命を落とした。

その心情は痛いほどわかる。

しかも、巻き添えに助けようとした、私の息子ま
で道連れに。

もともと、あの母親が私に許しを請う必要などな
いのだ。

土下座までして、私に謝ることに根拠などない。

ぶつけようのない怒りの中、それでも拓也の存在
に気を留め、謝りに来るなど、見上げた母親だ。

私が逆の立場なら、はたしてそこまで気が回った
だろうか・・

考えてみれば、私が女手一つで育て上げた拓也と
同じ、向こうも女手一つで育て上げた娘さんだ。

よく似た境遇。
いつまでも、私が一番の被害者面しているだけで
いいのか。

どんどん冷静さが増してきた。

現に拓也が怒っている。

私の心の中に入り込み強い口調で叱って行った。

あの爆竹の音を聞いた瞬間、拓也の「想い」が私
の心の中をスーッと通り過ぎていった。

母さん・・母さんは間違っている。
凛音は何も悪くない。
凛音のお母さんが一番悲しがっているはずだ。

母さんならそのこと、一番よくわかるだろうに。

なぜ、慰めてあげる事が出来ないの。

母さんはいつからそんな薄情な人になってしまっ
たんだよ。

僕は後悔など全然していないよ。

そりゃ・・結果は最悪なことになっちゃったけど
、僕は満足してるよ。

あのまま、見て見ぬふりして現場から逃げ去って
いたら、僕は永遠に自分を責め続けてたと思うん
だ。

僕にもし生きてた証があるとしたら、それは凛音
と、凛音のお母さんを最後に合わせる事が出来た
、、

その一瞬の為に僕は生れてきたのかもしれない。

それだけでも、僕は十分に自分のしたことに価値
があると思う。

だから、母さん・・凛音の母さんを労わってほし
いんだ。

母さん、ほっといたら、凛音の母さん、死んじゃ
うよ・・

死んで凛音のもとにこようとしちゃうよ。
助けてあげて欲しいんだ。

僕は凛音を救う事が出来なかった。
でも、今なら母さんは、凛音の母さんを救う事が
出来る。

母さん、お願いだ。
凛音の母さんを救う事が出来るのは母さんしかい
ないんだよ。

お願いだ、母さん、助けてあげて・・
凛音の母さんを助けてあげて・・・

拓也の想いは、強烈に私の心に捺印を押し消え去
った。

燃えたぎった、厚ぼったい拓也の想い・・・

でも、でも・・・
凛音・・て誰だ。

おおよその想像はつくが、私は拓也が助けようと
した娘の名前すら知らない。

確かめなくっちゃ・・

母親に、あの娘の名を。

               続く

 

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