文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第一話

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人の気配がしたので振り向くと、そこには凛音(りんね
が立っていた。

 

私の嫁だ。

 

綺麗というだけでは惜しいくらいの美人だ。

後ろに手を組みジッと私を見ている。

 

頬笑みながら私に近づくと、いきなり後ろ手に握
っていた包丁を私の腹に刺した。

不思議と痛くない。

 

ほほ笑みを浮かべながら凛音は、ゆっくりと、腹に
刺した包丁を引き抜いた。

赤い血がモノトーンで滴って落ちている。

 

とたんに、目まいと共に、身体中の力が抜け、私
は、そのまま床に膝をついた。

 

凛音を見上げると、握った包丁を両手に持ちかえ
え、大きく振りかぶり、そのまま私の頭に振り落
とした。

刺さる・・!

 

瞬間思いながらも、美しい凛音の表情に見とれて
いる私。

 

そのまま、包丁が頭に刺さったとわかった時さす
がに、叫んでしまった。

 

「アッ!」

 

目を閉じたその瞬間目が覚めた。

 

 

 

 

なんてことない、夢じゃないか。

そう・・夢だった。


生々しい夢だ。

しかし
夢に間違いってあるのだろうか。


まず、私は結婚などしてない。
いや、付き合ってる女性すらいないのだ。

 

それにしても、すごい夢を見たものだ。

今でもあの生々しさは忘れられない。

 

忘れられないのは、凛音に刺された生生しさでは
ない。

浅ましいことに、凛音の美しさが忘れられないのだ。

まさに私が想う理想形の女性だ。


あの夢
刺されたのは、私に非があったのだろうか?

 

あんな美しい女性と、たとえ刺される羽目に陥ろ
うとも、夢の中ではあるが、夫婦になれただけで
も、もう十分だ。

 

美人は才能だ。

美しさは、全ての悪を凌駕する。

 

しかし、、だ。


凛音・・この名前といい、その容姿といい、夢では
ない実感として記憶の中に残っている。

 

夢の記憶ではない。
現実の記憶として生々しく残っているのだ。

 


悶々とする。


歯を磨き、顔を洗い会社に出かける用意をしてい
ると、さすがに冷静になってきた。

 

凛音の美しさに浮かれている場合じゃなかろう。

夢とはいえ、刺されたのだ。
よくよく考えれば喜ばしい夢じゃないはずだ。

夢占いで言う、何かの暗示だとすれば不吉極まる。

少しは用心しないといけないな・・

 


そう思いだしたのは、食パンを一切れかじり、熱
いコーヒーで舌をやけどした頃だった。

 

予知夢かもしれない。
今日一日は気をつけた方がいいよな。

 

そう落としどころを見つけ、手洗い場の鏡で、髪
を直しながら、私は両の掌で、ほっぺを、2・3
度思いきり叩いた。

 

気合を入れなきゃ、現実がぼやけたままだ。

 

「さて!行くか」

 

紺のスーツをひっかけ、玄関のドアを開けた時、
女は立っていた。

 

開いた玄関の前に、まるで置かれた人形のように
微笑みを浮かべ、私を待っていたのだ。

 

私は、当たり前のように呟いていた。

「リンネ・・」

 

    続く

 

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