文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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【小説 赤い携帯】 及川のいない生活なんて考えられない

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顔どころか、全身が火照ってしょうがない。

目の前で土下座する及川を見て、薫もどう対応し
ていいのか戸惑っていた。

及川が、、私にプロポーズ。
私が、及川の、お嫁さん
及川と私が一緒に。

 

初めて及川が赴任してきた時、当時課長だった吉
木が、

「ひ弱そうな男だから、薫くん、君が、こいつ
 の面倒をみてやってくれ」

と頼まれたのが最初の出会い。

考えてみれば、勝也が去って入れ違いに及川が来
たのだ。

あれから、色んな事があった。
確かに、ひ弱な男だ。

なにが野球をやっていただ。
怒れば、すねるし、優しくすればつけ上がる。

左を向けといえば左しか向かないし、右を向けと
いえば、向いたままんま。

素直といえば、聞こえがいいが、要領が悪いった
らありゃしない。

最初の1年くらいは、同期の中でも、ダントツに
成績はビリ。

出世競争どころか、会社にいられるかどうかの瀬
戸際だ。

薫のメンツだって、ズタズタだ。

それでも、どうにかここまでこれたのは・・
私のおかげ・・いや違う。
私は、何にもしていない。

怒鳴り散らしていただけだ。

すべては、及川の人柄だ。

妙に人懐っこい。
ドジだけど、怒れない。
懐に、抱えてしまいたくなるような、人の良さが、
及川にはある。

愛嬌というやつだ。

人柄が、得意先に浸透していっただけだ。

今ある及川の姿は、全部及川自身の手柄だ。

私なんか何にもしていない。

及川を、小間使いのように公私共に、使い回して
いただけだ。

食生活の改善も、及川がしてくれた。

部屋に、コンロも鍋もなかった薫の部屋に、快適
な生活ができる「当たり前」の道具を揃えてくれ
たのも及川だ。

はた目を構わず、うわばみのように飲みあさり、
酔っぱらっても、ちゃんと家に連れ帰ってくれて
たのも、及川だ。

その及川が、、いなくなったら。
考えても、みなかった。

及川のいない生活なんか。

 

  続く

 

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