文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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【小説】赤い携帯  及川が部屋に上がってキョロキョロと

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及川が突っ立っていた。

まっすぐ、直立不動だ。
手には、一目でケーキとわかる箱を持っている。

単純な奴だ。

「及川、夜中に女性の部屋訪ねていいと思って
るの」

少し、白々しいか。
口を尖らして言ってみた。

及川は、酔った薫を何度もこの部屋に投げ込ん
でくれたことがある。
いまさら・・夜中もへったくれも、あったもの
じゃない。

「先輩・・いいですか。恋人・・いらっしゃる
んじゃないんですか」

及川が、つま先立ちで部屋の中を覗いている。

「なによ、それ、嫌味」
「え・・恋人いないんすか?」
「及川、何言ってんのよ、恋人たら、いるの、
いないの、わけわからないこと言って」
「だって・・儀式なんでしょ。今日は」
「うるさいわね。とにかく中入んなさい」

及川の声は大きい。

隣近所に、何を言われるか、わかったもん
じゃない

結構いいマンションなんだから・・この賃貸。

これでも、一応はつつましやかなレディーで
通っている。
とにかく部屋に入れた方が(安全)だ。

「上がっていいんすか」
「いつも入ってるじゃないの」
「今日は、特別だと聞いたもんで」
「うるさい、とにかく入んなさい」

部屋に入ると、及川は部屋の中を探った。

「何あちこち、見てんのよ」
「誰かいらっしゃったん
 じゃないですか?」

空になった2つのワイングラスに目が注がれている。
そのまま横に立ってる薫を見直した。

真っ赤なドレスに、見慣れない口紅。

胸元に目をやると、大きく胸がはだけている。
慌てて、視線を外した。

「及川、今、変なこと妄想したでしょう」
「え・・」
「目が泳いでる。泳いでるちゅうの。言ったでしょ。
自分の気持ちを目に出しちゃ、営業職は失格だって」
「先輩・・ここにきてまた、仕事のダメだしですか。
もう、許してくださいよ」

ま・・及川の言う事もわからないわけではない。
胸が半分出るようなドレスを着た、酔っぱらい女が、
説教もないもんだ。

「じろじろ見るんじゃない!」

そう言いながら、薫は薄手のカーデガンを羽織った。

及川は何度も、薫の部屋に来た事がある。

仕事の話は勿論のこと、酔っぱらった薫を家まで
運び届けるのも、及川の役目だった。

なのに、今日は妙に「空気感」が違った。

その違いが、照れにつながるのか、、二人の掛け
合いが、少しずつずれる。
その、ずれが、いよいよおかしな空気を増幅して
いく。

へんてこな感覚だ。
薫は、窓を全開にした。

「空気入れ替えるわ」

    続く

 

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