文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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【小説】赤い携帯 儀式なんてやって、あたし馬鹿じゃないの

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左手で携帯電話を握り締めたまま窓
を開けた。

冷たい風がヒンヤリ。
とても心地よい。

壁際に転がってるワイングラスはも
う空っぽだ。

頭を振ると、視界もぐるぐる回る。

流れ星らしきものが流れたと思ったが、
よく見れば遠めの外灯だ。

酔っぱらいのおっさんが川岸を、自転
車に乗りながら鼻歌を鳴らしていた。
時折り奇声をあげて、大声で笑ってい
る。

儀式だというのに、ロマンチックのか
けらもない。

涙もない。
未練もない。
怒りもない。
何にもない。

何にもない儀式だ。
私は何をしてるんだろう。

長い髪を両手でかきわけると、ほのかな
香りが漂う。

ワインの香りだ。

北斗七星に、標準を定め携帯で狙い
をつけた。
親指はボタンに触れている。

「ばきゅーーん」

親指で後は押すだけだ。
これで儀式は終わる。
綺麗に消えてなくなるはずだ。

無くなって当然の報いだ。

なにが5年だ。
ふざけるんじゃない。
始めから知ってたんだ。
全部嘘なんだ。

お前の言う事なんか、何から何まで、
出会いから、今日にいたる、
何もかもが、まるごと嘘なんだ。

なくなったらいいんだ。
こんな想い出。

大嫌いだ・・

えーーい・・
押すぞ。
押してやる。

えーーーい。

押せない。
押せないよぅ・・
押せないんだってば・・

だって・・まだ今日が終
わるまで・・

そう・・時間は、まだ・少しあるし。

薫はそのままぺたりと尻もちをついた。
フローリングの木肌がひんやりと心地
よい。

「ふーー」と深いため息が出る。

ワインはもう空っぽだ。
勝也の為に用意したグラスをつかむと、
一気に飲み干した。

「馬鹿な奴」

「馬鹿なのは・・あたしか」

床に大の字になって寝た。

横目で開いた窓から星空を見た。
急に怒りが湧いてきた。

「笑うんじゃないわよ!」

立ち上がり、窓を勢いよく閉めた。

「星達に笑われたじゃないの」

手に持った携帯を思いきり床に投げつ
けた。
フローリングじゃなく、絨毯敷きの隣
の部屋にだ。
携帯は絨毯の中に、音もなく埋まった。

「なんなの・・あたし。どうしちゃたの
。もうめちゃくちゃ」

薫にはわかっていた。

遠い意識の彼方から、冷静に、冷たい
視線で自分を見ている、
もう一人の自分がいることを。

その事が、いよいよ情けなさを増長さ
せていることも。

一人芝居なんか・・もう嫌
惨めったら、ありゃしない。

 

        続く

 

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