文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 真理蛙の滴(マリアのしずく)第七話

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紗季を玄関のオートロックインターホンで呼び
出したが中々出てこない。

陽子からもらった、サンタマリアのマッチを見
ながら又吉は少しイラつきながら沙希の返事を
待ったが、呼び出しにも応じない。

ふっと冷静になった。

陽子がいないと言う事は、紗季は一人だ。
又吉が紗季と二人きりで部屋にいたことなど
勿論ない。
いつも陽子が一緒だった。

今又吉が訪問すれば、二人きりで部屋にいる
ことになる。

「あっ!」

うかつだった、
外に呼び出すべきだった。
何の配慮も考えず、夢中で来てしまった。

思わず後悔した時、沙希の声がインターホン
から響いた。

「ごめんなさい、今食事作っていたから」

屈託のない声だ。

オートロックを解除してもらい部屋の前に立
つと、インターホンを押す前にドアが開いた。

「あ、、あの」

その屈託のなさに、又吉の方が狼狽した。

「いいですか、はいって」

「ええ、勿論、何故?しんりさん面白い」

又吉は二人から「しんりさん」と呼ばれていた。
編集社でのあだ名だ。

紗季は、大きく、丸い目をさらに丸くして又
吉を見上げている。
又吉と二人きりになる事など、まったく気にし
ていない素振りだ。

 

陽子と紗季が住むマンションは高級住宅地が並ぶ
一角に建てられた五階建てのマンションだ。

五階建てマンションが道路を挟んで一棟づつ建て
られており、陽子達のマンションはその北側に
位置し外壁は薄ピンクに塗られている。

もう一棟の南側のマンションは同じ造りで色だけ
が違い、地元ではツインマンションと呼ばれてい
た。

ワンフロアが全て一人所有の分譲で、地元でも高
額なマンションで有名だった。

朝比奈一族が飛行機事故で亡くなり、莫大な財産
を手に入れた陽子と紗季にとって、ツインマンシ
ョンは決して高い買い物ではなかった。

陽子はそのマンションをさらにリフォームし、研
究の為専門書が多い自分には大きな本棚を、画家
を目指す紗季にはアトリエを作った。

独身の女二人には贅沢すぎるマンションには違い
なかった。

      続く

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