文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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小説 真理蛙の滴(マリアのしずく)第五話

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又吉は寝っ転がって天井を見た。
天井一面には夜空の壁紙が張ってある。
又吉自慢の壁紙だ。

天井を見ながら考えをまとめてみた。

陽子と最後にあったのは三ヵ月前。
陽子の家でだ。

勿論紗季も一緒だ。
紗季の手料理を三人で食べ、陽子が切り出した
恋の話を三人で楽しく語り合った。

話の八割は陽子で、紗季と又吉はほとんどが聞
き役だった。

恋の話は陽子の十八番で、恋に心理学をまぶし、
面白おかしく語る陽子の話を、又吉も紗季も大
好きだった。

一度紗季に陽子の話は実体験に基づくものかと
尋ねてみたが、薄笑いを湛えるだけで、答えて
はくれなかったが、又吉が見るところ大部分が
本からの知識ではないかと思っている。

今思えば、あの日に陽子は大学の講師も辞めて
いたのだが、あの日のデートではそんなことは
おくびにも出さなかった。

陽子の自宅での食事会は、三人の間ではデート
と称されていた。
紗季がこれはデートなんかじゃないと言っても

「沙希にデートの何たるかを語る資格がない」

と陽子は取り合わず

「これはデート、間違いなくデートなの」

と言い張り、いつも又吉を呼び出すときは「デー
トするからおいで」と連絡をしてきていた。

時折沙希は料理の合間、又吉に小声で

「たまには外でデートしてきなさいよ」

と忠告するのだが、又吉にすれば言いたいこと
は山ほどある。

陽子から、デートは沙希を交えた三人でしかしな
いと言われ、かつ連絡は陽子からの一方通行、又
吉からの連絡は出版社からの連絡以外取ってもも
らえなかったからだ。

これで陽子と又吉が恋人関係などと世間では思わ
れているのだから、又吉にすれば迷惑千万な話だ
った。

時折又吉は思うことがあった。

ひょっとしたらどこかに陽子の本命男がおり、又
吉はその隠れ蓑、だとすれば世間に表立って話す
ことのできない相手か・・
と、想像したこともあるのだが、常の陽子を見て
いると、とてもそんな相手がいるとは思えなかっ
た。

とにかく陽子は一晩紗季に黙って家を空けた。
仕事も辞めて、又吉や友人達には長い旅行に行く
と嘘をついてる。

一体何があったんだ。

       続く

 

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