文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第十九話

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「拓也が私の中に降りて来て、そこで私は初め
 てわかったの。私も辛いけど、立花さんも辛
 い。拓也も無念だろうが、凛音さんだっても
 っと辛かったに違いないって」

立花は、まっすぐ私を見
つめていた。
手には、真っ白なハンカチを握り締めて。

「もし、ここで私が拓也の後を追って死んだら
 ・・たぶん立花さんも生きてないだろうなっ
 て。そうしたら、私が立花さんを死に追いや
 ったみたいだし、そうじゃなく、て立花さん
 が先に逝っちゃったら、今度は私だって生き
 ていられないわ」

夕方の川風が心地よくほほを撫でていく。

喋れば、しゃべるほど心の中がどんどん軽くなっ
ていくから不思議だ。

「これって、おかしいと思わない?拓也も、凛
 音さんも、立花さんも、私も、みんな被害者
 じゃない。たった一人、馬鹿な男の為に、ど
 うして私達4人が死ななきゃいけないの。も
 し仮に、どんな人間にも生きてる理由がある
 としたら、私や、立花さんの生きてる理由は
 、二人の後を追って死ぬことなんかじゃない
 と思うの。他に、なにか、きっと託されたこ
 とがあると思うの。」

立花の眼尻から一筋の涙が流れていた。

「私、思ったわけ。とりあえず、今私が生きて
 る意味は、拓也を悲しむことじゃない。拓也
 をまっすぐ見送って、そして、立花さんが死
 なないように見届けることなんだって・・」

「凛音が・・・」

乾いた声で、立花の口が開いた。

「凛音がなくなる前に、二言だけ言ったの。こ
 れを聞けただけでも、私はもう、よかったの」

私は、黙って立花が話し始めるのを待った。
さあ・・
今度はあなたよ。
あなたのその胸の中にある怒り、全部吐き出して
頂戴。

私が聞いてあげる。
それが私の務めだと思うの。

「最初に、拓也さんの事聞いたの。・・あの
 助けにきてくれた人は大丈夫だったかって」

立花の目は真っ赤になっていた。
右目から一筋の涙の跡は見えるが、まだまだ、心
の中の怒りは、封印されたままだ。

吐き出しなさい、早く、、何もかも・・

「私は、凛音に嘘を言ったの。拓也さんは大丈
 夫だって。だからあなたも早く元気になって
 お礼を言いに行きましょって。」

その時の情景を思い出したのだろうか。
立花は、ハンカチで両目をぬぐった。

間違いなく、大粒の涙が両頬に流れている。

泣けないでいた、私の目からも、まるでせきを切
ったように、涙があふれ出した。

  続く

 

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