文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第六話

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「じゃ・・行くわよ」

そう言って私の手を引いた凛音の手がいつもより
分厚い。

後ろから見る凛音の背中が、がっしりと感じられ
る。

あたり前だ。


今回は、凛音が女子プロレスラーの選手で私がそ
の旦那の役回りだった。

大人気の凛音に比べ、私はうだつのあがらない
「しょぼい男」だ。

結婚後も、私のうだつの上がらなさはそのままに
、凛音のプロレスラーの人気は世界へと飛び出し
て行った。


私とて、凛音の亭主として恥ずかしくない地位ま
で行こうと思ったのだが、何をやっても上手くい
かない。


何回もの人生でつかんだノウハウは、試してみて
も、いつも裏目裏目に現れ、結局頓挫してしまう。

自分から言いだした事とはいえ、さすがに情けな
い人生だ。

しかし、私とて、何度も何度も人生をただ、楽し
んできたわけではない。

世の道理というものは、きっちりつかんできたは
ずだ。人間としての生き方は心得ているつもりだ。

私は、自分の人生を凛音の人生に賭けた。
凛音の幸せのために私は、脇役になるのだ。

そう悟った時、この人生は好転した。


料理学校に通い、凛音の為においしく、栄養価の
高い料理を作り始めた。

最初の頃は、なかなかうまくいかなかったが、し
かし、努力は必ず実をつける。

今では、凛音が目を細めて喜んでくれる料理を作
れるようになった。

家も凛音の為に改築した。


凛音が、女子プロレスラーの頂点を維持するため
の科学的なトレーニングを考案し、その実践の為
家全体をトレーニング用の施設に改築したのだ。

凛音が喜ぶ
凛音が楽しむ
凛音が感心する

全てを凛音の為に注いだ。

いつしか凛音の喜びが私の喜びだと感じられるよ
うになってきた。

もともと、凛音は私の理想の女性像だった。

外見は欠点のない、私好みの凛音だ。

今までの人生は、そんな凛音から愛を・・無償の
愛を受けるだけの人生だった。

しかし、今回は違う。

私が凛音に愛を注ぐ人生だ。

愛される人生から、愛する人生にシフトした。

愛される人生もそれなりに楽しかったが、愛する
人生がもたらす「愛」の度合いは愛される愛の比
ではない。

人は、もともと、愛されるより、愛する方が合っ
ているのだ。

凛音が喜んでくれる事が、私の生きてる証しにな
った。

凛音の笑顔が、私になんともいえぬ「こそばゆい
」感動を与えてくれる。

百何回の人生の中で、私は初めて「愛」という実
感を味わう事ができた。

新しい人生が始まったのだ。

   続く

 

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