文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第五話

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「なにしてるのよ。行くわよ」

同じフレーズで、同じように私の手を引くと階段
を降りる。

今度は何なんだ・・

スポーツ
芸術
政界
映画監督・・・

私は、すべてのジャンルで、人生を全うし、すべ
てのジャンルで大成功し、素敵な妻と楽しく暮ら
し、出来過ぎた子供達に看取られ、次の人生を始
める・・・

いくつの人生を味わったのだろうか。

100までは覚えがあるが、それ以上は数えるの
も面倒くさくなってきた。

いや・・言い方が悪い。
罰があたる。


一つ一つの人生は、それ自体重厚で、がっしりと
厚みのある人生だ。

苦しみや、悲しみの後に来る、楽しみも、つぶさ
に記憶の中に残っている。

退屈・・などという感情は、当然微塵も湧いてい
ない。

一つ一つの人生は、私に感動を覚えさせ、楽しか
った。

どの人生にも、傍らに寄り添ってくれた凛音は、
その人生人生に合わせた、良き妻を演じてくれた。


飽きるなんて、思ったことすらない。


生まれてきた子供たちとのやり取りも、ちゃんと
事細かに覚えている。


どの人生においても、子供達は私に感動を与え、
希望を降り注いでくれた。

ただ・・
ただ・・
何かが変なのだ。

何が変なのか、どうしても思いつかないのだが
「何か変だ」という気持ちは付きまとってはなれ
ない。

 

そして・・
とうとう言ってしまった。


「変だ・・」

「えっ・・」


私を引っ張っていた凛音が突然立ち止まった。


そして、ゆっくりと振り向くと悲しそうな表情で
私を見つめた。


「変だと思うんだ」

「何が?」

「だって、同じじゃないか。いつも」

「いつも?」

「役柄が変わるだけで、中身はいつもいっしょ
 じゃないか」

「そう・・いつもいっしょだと思うわけ」


凛音がいよいよ悲しそうな顔をした。


私は、何かまずいことを言ってる・・そんな気は
したが、しかし、話し始めた言葉は、もう止まら
ない。


「たまには・・変わってもいいと思うんだ」

「か・わ・る・・・」


一言一言、短く区切って凛音は、まるで自分自身
に言い聞かせるように呟いた。


「たまには、不幸になる結末も」

言ってしまって、私はハッとした。

そうだ、いつも、ハッピーエンドじゃないか。

病室のベッドで逝く私を家族と凛音が見守る・・
こんなハッピーエンドばかりが人生じゃない。

たまには、悲しい結末だってあるじゃないか・・

そう言いながら、私は、はっきりと思いだしてい
た。

凛音に刺された、あのおぞましい夢を・・。

    続く

 

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