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fuuraの小部屋

小説や本について寡黙に妄想。小説家になろうのサイトで人気を得る研究。小説家になるにはどうしたらいいかを研究。でも結局は、まずは小説と詩を書こう 。

霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第四話 

小説

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「なにしてるのよ。行くわよ」

凛音が私の手を引き階段を降りはじめた。

デジャブ・・
錯覚・・・
夢・・・

おぼろげな記憶がぐるぐる回るが、掴まれた手か
ら感じる凛音の感触が妙に生々しい。

なんなんだ・・これは。

疑問と言うより、問いかけに近いつぶやき。

しかし、そのつぶやきも連れていかれた結婚式場
で、群れ集うファンの波に、かき消された。

どうやら、私は有名なアーティストのようだ。

実感はないが、まわりがそうだと言い張るのだか
ら、そうなのだろう。

私が、誰なのかは問題ではない。

それらしく、ふるまってさえいれば、私は

「その人」

になりきれるのだから。


問題は・・そう、、問題は、何かあるのだが、そ
の何かが何なのか、わからない。

わからない
「何か」あるはずだが、思いつかない「なにか」


結局、考えるのに飽きた私は「その人」になりき
ることにした。

いや・・あるいはその人が実は本当に「私」なの
かも知れないが、頭がこんがらかってわからなく
なっていた。


どうでもいい。
私は有名なアーティストで、その妻が凛音なのだ。

それだけで十分じゃないか。

この上、何を望めというのだ。混沌はいつの時代
もついて回る。これぐらいの混沌、どってことな
いじゃないか。


達観した私は、その人になりきった。

いや、自分自身を取り戻したというべきか。

作る歌は、曲は、すべてヒットした。
海外からもオファーがかかり、私はいつの間にか
世界を代表するアーティストになっていた。


当然、凛音との仲も睦ましい。

睦ましければ子も生まれる。


優しく、可愛く、出来のいい子供たち。

世界各国に別荘を持ち、悠悠自適な生活を満喫し
た私。

やがて医者から癌を宣告された。

74歳の冬だ。

はは・・ん。死ぬのだ。

二度目だぞ。

あのベットの中の風景を思い出した。

前の生きていた記憶が実は丸ごと残っているのだ。

大実業家で、大往生したのも私。

大アーティストになり、やがて逝くはずの私。

二つの記憶が、ぎっしりと頭の中に残っている。

その二人に尽くした凛音は、相変わらずの淑女ぶ
り。

なにか、しっくりとこない人生ではあるが、この
充実感ははんぱなものじゃない。

きっちり、充実した74年分・・いや前の人生を
足せば150年近い人生が、記憶の重みとして残
っている。

夢ではない。
手に触れ、重みとして感じ得る確かな人生の実感
が、今ここにある。
 
御臨終です・・・・

 

遥かかなたで、聞こえた医師の声が聞こえ、スー
と引き込まれる死への誘い。

 

・・・死んだ。

 


そう思ったその時、目が覚めた。

目の前には、凛音がいた。

あの玄関の前でだ。

楽しそうに
懐かしそうに

それでいて、新鮮な凛音が立っていた。

   続く

 

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