文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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霊と怨念のはざまに漂う鐘楼流しの詩に花一輪 第二話

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「なにしてるのよ」


凛音の問いかけに私はただ黙ったままでいるしか
なかった。

夢の中の女がいきなり目の前に立っているのだ。

思わず身構え、後ずさりさえした。

凛音は、夢の中で私を殺そうとしたのだ。

それに、記憶をどう、たぐっても、私は凛音をし
らない。

あの夢の中で出会ったのが初めての出会いだ。

「なに、ボーッとしてるの」

「・・・」

「行くわよ、もう時間がないんだし」


私の手を握り、凛音は私を引きずるように引っ張
っていく。

気がつけば、大きな教会で私達は結婚式を挙げて
いた。

私の実家はしなびた農家だ。

それなのに、500人は超えると思われる参列者
に、正直驚いた。

後でわかったことだが、凛音の親は、日本でも有
数の実業家とか。

わけのわからないまま、それでも、不自然さは感
じず私は、ごく普通に凛音との結婚生活を楽しん
だ。

浮いた気持ちになっている事が、ひょっとしたら
、まだ夢を見ているのでは・・という感覚も覚え
たが、それにしては、現実をはっきりとらえる事
ができる。

わずかな疑念がより、楽しさを倍増している。

しかし、これが、夢でなければ、気になる事も一
つある。

例の、あの、凛音に刺された夢だ。

予知夢かも・・そんな気持ちが頭の片隅に引っ掛
かっており、つい、凛音に対する対応に遠慮が生
まれる。


幸せの絶頂に、ひょっとしたら・・・


そんな疑念も、凛音の優しさ、物わかりのいい実
家の義父母たちによって、いつしか吹き飛んで行
った。


義父の後を引き継いだ事業も、より成功し、子宝
にも恵まれ、順風満帆そのものの生活が続いてい
った。


凛音の優しさも、歳を重ねるごとに、潤いのある
優しさになり、とても、自分が刺されるなんてあ
りえないことに思えた。

幸せは、あっという間に年月を通り過ぎて行く。


気がつけば、還暦を迎え、反抗期すら思い出せな
いよく出来た子供達と、その孫に囲まれ、幸せを
絵にかいたような一時だった。

70を迎え、医師から余命半年のがん宣告をされ
た時、正直私はホッとした。

忘ようとしても忘れられない、あの、凛音に刺さ
れた、怪しげな夢。

癌で死ぬのは辛いが、それよりも天寿を全うでき
る喜びの方が勝ったのだから、私は、よほど幸福
だったのだろう。

今なら、もう70すぎだ。


何かの間違いで、たとえ凜音に刺されたとしても
、惜しくはない。


時折り、書斎の椅子に座りながら、あのおぞまし
い夢を思い出しはするが、あれはまさしく、夢だ
ったのだろう。


とにかく、私はとても幸せなのだ。

     続く

 

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