ぼやけた女にくすぐられた男の瞳に愛が宿る訳-9
「わかった事がある」
「なにが?」
「君が・・いや、私の心がなぜこうも、ささくれ
だってるかが」
「・・・」
「苛立ってる原因がさ」
「私は何も苛立ってはいないわ」
「じゃあ、怒っているかだ」
「怒ってもないわ」
「私は怒ってる」
シャワーの元栓を止めた。寒さは、心の中から冷える
冷気だけで十分だ。
元栓を止めると同時にシャワー室を静けさが襲った。
これはこれで、また身体を冷やすに十分な効果だった。
「私は、君が、飲み屋で知り合った男と簡単にホテル
に行く女だと露ほども思っていない。」
沙希が私を見た。あの大人びた瞳だ。
「私とて、こんな経験は人生で初めてだ」
「で・・?」
「抱きあって正気になった後、私は後悔した」
「後悔?」
「手順を間違えた事にたいする後悔さ」
「手順・・」
「抱いた後、私はきづいたんだ。
君を愛してる事に」
「・・・」
「だから、悔いたんだ。君への愛を確かめる前に
抱き合ってしまったことを」
「ずいぶんめんどくさいことを言うのね」