ぼやけた女にくすぐられた男の瞳に愛が宿る訳-8
湯気が立ち昇っていない。
沙希は水のシャワーを浴びているのだ。
「なぜ、水なんだ」
「夢を流すには、水が最適なの」
「夢が流れきる前に、もう一度君を抱きたい」
「・・」
「君をもう一度抱きたいんだ」
「無理・・」
「どうしてだい」
私は無理やり沙希を抱きしめた。
ビクン、と沙希の身体が震えた。
いや震えたのは、水のシャワーに入った私だった
かもしれない。
「好きだ」
「言ったでしょ。ここに愛などないって」
「なければ、作ればいい」
「男の愛は、簡単に作れるけれど、女の愛は出来
上がるのに時間がかかるの」
「時間は、いっぱいあるじゃないか」
「時間はないわ。もう日が昇る時間」
冷めたシャワーは確かに情熱を冷やす。
私の心も、次第に萎えて行った。
沙希に萎えたのではない。
水のシャワーで取り戻していった冷静さが私自身を
白けさせていったのだ。
続く