文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

ca-pub-9247012416315181

【小説 赤い携帯】  こんな携帯折ってやる!

f:id:fuura0925:20150923154042j:plain

 

「及川君」

空を見つめたまま薫が及川に言った。

「はい」
「及川君お願いがあるの」
「は・・はい」
「これ、海に投げ捨ててくれる」

薫は、自分の携帯を及川
に渡した。

突然携帯を手渡され、及川も驚いた。

「先輩、携帯捨てちゃっていいんですか」
「いいの」

「でも・・困りませんか携帯ですよ」
「いいの。言ったでしょ今日は儀式だって」

「儀式と携帯・・なんか関係あるんですか」
「いいのよ。投げてくれれば」

携帯を見つめ、薫を見つめた、及川は、もう一度
薫に念押しした。

「本当に、いいですね」
「いいから、思いっきり、遠くに投げてくれる」

及川はもう一度、薫と携帯に目を向けた。

渡された携帯はずいぶん古い機種だ。

見なれた薫の、真っ赤な携帯だ。

仕事中、何度も携帯を新機種に変えるよう、勧め
たが、いつも曖昧に笑って、結局拒み続けてきた
古い携帯。

わけがある事は、薄薄感ずいていた。

その携帯を、儀式だから放ってくれという。

思いつくことは一つしかない。

正直、この携帯には悩まされた。

時折り、この携帯を握りしめながら、遠くを見つ
める薫に、及川はどれほど胸を焦がされてきたこ
とか。

その、携帯を、今、薫は海に投げ捨ててくれとい
う。

無性に腹が立ってきた。

「じゃ・・先輩、放る前に、こうしときましょ」

そういうと、及川は、薫の前で携帯を真っ二つに
折ろうとした。

その時だった。
突然赤い携帯から、着信音が鳴り響いた。

及川は、携帯をチラ見し薫を見た。

二人の目線が合うと

「見ます?」
「いいの、折って」

「でも・・」
「折りなさい!」

強い口調で薫が怒鳴った。

その勢いに、及川は、思わず携帯を折ってしまっ
た。

少し、躊躇はしたが、やがて度胸を決めて、ぐり
ぐりコネ、完全に二つに分離してしまった。

「やっちゃいました」

薫が及川を睨んでいる。

「誰からか知りたいですか?」
「見たの?」

「いいえ・・」
「じゃ、わからないでしょ」
「でも、知りたいですか・・今のが誰からなの
 か・・」

「見てないんでしょ」
「・・・」

薫が一息、大きく息を吐いた。

「なんでわざわざ、携帯を折ろうと思ったの」

じっと薫を見つめていた及川は、恥ずかしそうに
頭を掻くと

「嫉妬だと思ってください」

「嫉妬?」

「あはは、僕、携帯に嫉妬してました」
「何の事よ?」

「ま・・いいじゃないですか。いいすか・・放ります
 よ」

そう、言い終らないうちに、及川は、折った(元携帯)
の塊を海に向かって放りなげた。

元携帯は、月の光にあおられながら、キラキラき
らめいて、綺麗な放物線を描きながら、海の中に
落ちていった。

音すらせずに闇の中に。

    続く

 

←戻る  進む→