文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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【小説 赤い携帯】  そうよね五年は長すぎるわよね

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埠頭の広場につくと、薫が車を駐車する場所を指
定してきた。

海岸に一番近い端っこの駐車場だ。

「少し歩きましょ」

及川の返事も待たず、薫は一人先に出ると、その
まま海岸べりに向かって歩き出した。

真っ赤な、高いヒールをコツコツ鳴らしながら、
薫は前に、前に歩いて行った。

風が、薫の白いスーツの箸をパァッとはね上げた

黒髪が、それにつられ舞い上がる。

間違いなく美しい。

及川は、慌てて薫の後を追った。

「座りましょ」

海辺を、眺めるように置かれた、石のベンチに薫
は腰をおろした。

薄暗い街灯は、薫を青白く照らしている。

視線は相変わらず空を見つめたままだ。

薫の横に、気持ち身体を寄せるように座った及川
は、身体ごと薫の方を向いた。

及川が何か言おうとしたその瞬間、薫が及川に視
線も向けた。

優しい眼差しだ。

「少し近くない・・君」

薫がくすくす笑っている

確かに、近すぎる。
顔と顔がくっつきすぎるぐらいに近い。

「あ・・あっ・・どうも」

及川は慌てて席をずらした。

「ここ想い出の場所なの」
「は・・はい」
「及川君、どうして私なんかと東京に行きたい
 の」
「そ・・されは、、さっき言いました」
「もう一度、言って欲しいの」
「先輩と離れたくないからです」
「3年もしたら、また大阪に戻ってこられると
 思うよ」

本社に行っても、地元が大阪の人間は、結局3年
ほどで戻ってこられることは、過去の事例で誰も
がしっていた。

「3年も先輩と離れて暮らしていられませんよ」
「たった3年よ」

頭の中で5年という数字が流れた。

「3年もです」

「3年・・も・・か」

「そうです。3年もです」

「そうね・・そうよね・・ふん・・5年は長い
 わよね。長すぎるわよね」

「さ・・三年です」

   続く

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