文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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【小説 赤い携帯】 先輩答えてください

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「先輩。答えてください 」

頭を下げたまま、及川が悲痛な声で叫んでいる。

いさぎよい。

ほれぼれするほど潔い。5年待っててくれと逃げ
去った勝也とは大違いだ

その「5年待ってくれ」の言葉にしがみついて生
きてきた薫とは大違いだ

戻さなきゃ。
時を。
突然薫は思った。

このままじゃいけない。
けじめつけるのは私だ。

このまま及川の言葉にすがるわけにはいかない。

私が、私を許せない。
許すことができない。

私こそ、私の甘い心根こそ、儀式が必要だ。

儀式は、そう、あそこで行うに限る、ここじ
ゃない・・あの場所で、あの地で行うんだ・・


「及川君」
「はい!」
「川尻の埠頭知ってる」
「え・・?」

思わぬ問いかけに、及川は頭をあげた。

穏やかな薫の眼差しが、そこにある。

「川尻の埠頭知ってる?」
「川尻って・・あの川尻」
「そう・・あの川尻」

あの川尻が、どの川尻なのかよくかわからない及
川だったが、川尻の埠頭の場所は知っている。

意味がわからないまま、うなずくと、薫が

「じゃ・・そこ連れてって」

と、突然言いだした。
薫はそのまま、外出の支度まで、始めた。

「せ・・先輩。どうしたんすか、急に。」

「連れてって・埠頭に」

洋服ダンスから、真っ白な上着を取りだすと、袖
を通しながら、目で、もう一度及川にお願いした

「とにかく連れてって。ね・お願い」
「わかりました。車マンションの前に持ってき
 ます。
 すぐもどってきます。
 いいですか先輩。
 すぐ戻ってきますから」

そういい残すと、及川はころがるように、駐車場
に向かって走って行った

「そうか・・儀式なんだまだ、儀式の最中だっ
 たんだ。
 及川がここに来たのも及川の話も、全部儀式
 なんだ。
 まさか、、あんたのおぜん立てじゃないわよ
 ね」

開け放った窓から、勝也に問いかけてみた。

問いかけた勝也の顔は見えない。
思い出せないのだ。
ただ、星が不思議そうにまたたいているだけだ。

「そんなわけないわよね私の前から、嘘ついて
 まで逃げてったあんたが、こんな気の利いた
 演出するわけないもんね」

思わず笑ってしまった。

ここにきて、まだ勝也に問いかけている。

私って・・ほんとダメな女ね・・

 

  続く

 

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