文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

ca-pub-9247012416315181

【小説】赤い携帯 私はいったい今日まで誰をしのんでいたのだろうか

f:id:fuura0925:20150923154042j:plain

「で・なんなの話って」
「あ・・」

そういうと及川は急に立ち上がった。

話しにくそうだ。

「熱いコーヒ入れましょうか」
「ここは私の部屋よ」

そうは、言ったものの、どこに何があるか、及川
の方がよく知ってる。

もともと、嗜好品は及川が買ってきて、薫の部屋
においていったものだ。

薫は料理には全く興味がない。
仕事一筋、突っ走ってきた。

「いいわよ。君が飲みたいんなら入れてあげる
 わよ」
「あ・・いいす。先輩、僕自分で入れますから」
「私が入れるっていったでしょ」

どうも、空気がおかしい。
妙に「こそばゆい」のだ。

じっとしてるより、動きたい。
動かないと、何かを口走ってしまうようで怖い気
がしたのだ。

流しの棚でコーヒーの缶を探すが見当たらない。

「先輩、インスタントのコーヒーもう切れてま
 す。豆その上から三段目の缶の中に入ってますか
 ら。」

そういえば、先週、インスタントより、点てたほ
うがおいしいと、及川が用意したのを思いだした。

「もう・・やっぱ、及川、あんたが入れなさい」
 
誰がこの部屋の所有者かわからない。
いつのまにか、部屋の中が及川色に染められてい
た。

「あべこべジャン」
「え・・何か言いました?」
「なんでもない!。私のは、薄くしてよ」
「あれ、先輩も飲むんですか」
「当たり前でしょうが」

窓際の席に、べたりと腰を落とすと、やがて、甘
いコーヒーの香りが部屋中に漂ってきた。

気づけば、窓が閉められている。
及川が閉めたのだろう。

確かに肌寒い。
薄着の薫には、こたえる。

やたら、気が付く男だ。
この気づかいを、仕事にいかせばいいのに。

「はい先輩」

テーブルの上に二つのカップを置くと、空になっ
た、ワイングラスを手に持ち

「これ、もう片付けていいすか」

と聞いてきた。

「ええ・・」

又目が合った。
今度は、薫の方から視線を外した。

儀式を持っていかれてしまった。

虚ろな眼差しで、及川の背中を見つめながら、薫
は愕然とした。

及川と、勝也が重なって見えてしょうがないのだ。

私は、今日まで誰を見ていたのだろうか・・

勝也・・それとも

及川。

 

  続く

 

←前に戻る 次に進む→