文学と占いは相通じるものがある

小説家になることを諦めた男のつぶやきです。

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【小説】赤い携帯 映画の様に盛り上がらない儀式は誰のせいだ!

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「勝也。これが最後よ」

そう言うと、薫はワイングラスを誰もいない
空席のグラスにあてた。
乾いた音が室内に響くと、
振動の余韻が、かすかに、勝也の記憶を呼び
戻した。

今さら何よ・・頭を振ると・・

「乾杯!そしてさようなら」

一気にグラスのワインをあおった。

「勝也やるわよ」

もう一度携帯に向かって薫は念押しした。

真っ赤な古びた携帯。
勝也が、薫にピッタリの色だと、買ってくれた
、、いや、選んでくれた携帯だ。
お金を出したのは薫だ。

携帯の画面には勝也の電話番号が表示されて
いる。

もう5年も現れていない電話番号だ。
番号は今でも覚えているというのに。

別れを切り出したのは勝也のほうだ。
言われる予感はあった。

フランスに行きたい。
フランスで絵画の勉強をしたい。

・・なにをチャラけた事を。
別れるための口実だと薫にはわかっていた。

もっとましな嘘を言え。
それが、一度でも愛した女に対する気遣い
だろうに・・

嘘にもほどがある。
なにが、フランスだ。

別れる間際の勝也の服装が変わっていったのは
女ができたせいなのだろう。
そんなこと、わかりきっている。

せめてもの救いは、あいつが嘘をつき通してく
れたことか。

「5年待ってくれ。5年たったら君の携帯にき
っと連絡する。信じてくれ。必ずする。」

そい言うと、あいつは、ケーキに立てた1本の
ローソクに火をつけた。

「これが証しだ。俺も別の場所で、毎年この日
にケーキに火をともす。1本ずつローソクを増
やしていってくれ。信じてくれ。とにかく5年
・・5年待っていてくれ。これが証しなんだ」

意味不明。
話しに脈絡がない。
何がケーキだ。
誰がそんな甘い話を信じるか。

はっきり女が出来たから別れてくれと言われ
た方がすっきりする。

しかし、あいつは最後まで白を切り通した。
それがあいつなりの優しさなのだろうが。

上等じゃないか。
じゃあ・・私も待っていてやる。

5年なんだな。
5年したら必ずかけてくるんだな・・
この携帯に。

・・バカバカしい。
そんなに世の中、甘くはないわよ。

で・・今日がその5年目だ。
待ってやった。
意地でも、待ってやった。

とうとう、きてしまった。

かかってくるはずがない。あたり前だ。

だから、今日は儀式だ。
抹消してやるんだ。
あいつの電話番号を。

末梢ボタンを押すだけでいいんだ。

それで・・終わり
THE END だ。

何もかも忘れてやる。
押しさえすればいいんだ。

「あばよ勝也」

薫は削除ボタンに親指をか
けた。

情けない・・
押そうとするが、押せない。
指に力が入らないのだ。

「未練たらしいたら、ありゃしない」

薫は頭をかきむしった。

5年待って・・まだこの未練。

私は・・最低な女だ。
自分が一番嫌う女のタイプだ。
それを薫、お前が実演してるんだぞ・・

手酌で、何回もワインをつぎ足し飲み干した。

不思議と涙がでない。
ちっともでない
ぜんぜんでないのだ。

とっても悲しいのに。

泣くための儀式だというのに。
涙のかけらすらこぼれてくれない。

   続く

 

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