fuuraの小部屋

小説や本について寡黙に妄想。小説家になろうのサイトで人気を得る研究。小説家になるにはどうしたらいいかを研究。でも結局は、まずは小説と詩を書こう 。

存在を消すしかないのよ (短編)

 

f:id:fuura0925:20150908141252j:plain

臭い。匂う。かなわない。

夫が臭いと、最初に言い出したのは10歳になる娘だ。
幼い頃は「パパ・パパ」とまとわりついて離れなかった娘。
今では寄りつきさえしない。

私から見ても夫に非があるとは思えないのだが、娘に言わせると
「うざい」そうだ。

何がうざいのか聞いて見ても、とにかく全てが「うざい」そうなのだ。
いわゆる存在そのものが「うざい」と

「うざい」の一言で片づけられては夫が気の毒になる。

ところで、その娘、異様に鼻が利く。

お父さんの後には絶対お風呂に入りたくないと言い出した。

臭いのだという。

さすがにその時は、娘をたしなめたが・・
匂いに敏感な娘だからと・・

まあ、さほど、気にとめていないでいたがある日の事、夫の枕をかたずけようとしたら・・・

匂う・・・いや・・これは臭う。
臭いと言うのは始末に負えない。
一度気になりだしたら、気になってしかたがない。

これは困ったものだ。

夫のせいではない・・
たぶん。
加齢臭・・てやつだと思うが、気になる。

洗面所で夫とすれ違ったりすると、臭いの帯が見えるくらいに、鼻にくる。
娘と顔を見合わせ苦笑するしかない。

娘は苦笑すらしない。

当の本人もさすがに気づいたのだろうか。
突然、香水をふるようになったのだが、これがミスマッチ。

加齢臭と正反対の匂いを選んだのだろう。
お互いが喧嘩しあい、言い難い臭いだ。

加齢臭だけならまだしも、さすがにこの香水の混合は笑えない。

注意すると、お前たちの鼻がおかしいんだ。
会社では結構好評だ・・と居直る。

一応大手の、部長職だ。

部長のあんたに、正直に臭いと言える社員、さすがにはおらんだろ・
それぐらい、専業主婦の私でもわかる。

臭いは日に日に、増してきた。

ここまで来ると毒ガス攻撃だ。
娘に相談したが

「存在を消すしかなかろう」

と哲学めいた答えしか言ってくれない。

その答え通り、娘は夫に近づかない。
合理的な解決方法だ。

私の立場は微妙だ。
その昔、確かに(愛)めいたものは感じたであろう、あの男・・・
哀愁は感じるが、愛情はかけらすら見当たらない。

どこに落としてきたのだろう。

あの男が、毎日私の愛を、出勤途上の電車から投げ捨ててたのだろうか。

浮気もせず、今日まで一生懸命家族のために働いてきてくれた事は感謝する。
その感謝が、愛情に上積みされないのは何故なんだろう。

同情はするが・・理解はできない。

ハゲ過ぎた頭、出過ぎたお腹、臭い足・・個々の原因は確かにあろうが、それだけで、あの男の愛情が失せたとは思いたくはない。
なんにしても、私の大事な半世紀を彩る、主要人物だ。

あの男の否定は、私の人生そのものを否定することになる。

そう、右脳で理解するのだが・・漂う悪臭に愛の力はもろくも砕け散る。
最近では殺意さえ覚える。
確かに加齢臭はあの男のせいではない。
食わせたのは、私だ。
その料理の積み重ねが、あの男の加齢臭といっても、、間違いではない。

私も、あの男の加齢臭に関しては、共同正犯だ。
だから、よけいに困るのだ。

夫が見ているテレビで加齢臭の特集をやっていた。

夫が私を見て言う

「加齢臭はストレスが多いと強くなるんだって。俺は臭いのかな」

しめた!! いい感じだ
・・そう、そうなの。
早く気づいて、
自分から出る加齢臭の強さを。
みんなが困ってるのよ。

「しかしなんだな、もし俺が臭いとしたら、それはお前のせいだな。
 いつも俺に文句を言ったり、心配かけたり 、、ま、
 なんにしても、ストレスはいかんよな。ストレスは」

そう言って大笑いをした。

いかん。
気づいていない。
最悪だ。

何がストレスだ。
今あんたが発散してる、その加齢臭が私と娘にとってはストレスそのものだというのに。

娘の言葉が脳裏を横切る
・・。

「存在を消すしかないのよ 」

   終わり

 

   戻る

広告を非表示にする